障害年金の更新で、障害の等級に該当しなくなったと判断されると、年金の支給が停止されてしまいます。
その他にも、規定により障害年金が停止になることがあります。
ここでいう支給停止とは、受給権の消滅ではありません。
受給権は生きているけれど、なんらかの理由によって一時的に年金が止まっている状態を支給停止と呼びます。
この記事では、年金が支給停止になる原因と、その対処法について解説していきます。
目次
1.支給停止となる原因
支給停止となる原因は、主に以下の四つに分類されます。
“障害年金が支給停止になる原因”
- 更新手続きの際に、障害の等級が低いと判断された
- 他の年金を受給することになった
- 支給停止期間に該当した
- 20歳未満の傷病による障害基礎年金特有の支給停止事由に該当した
1-1.更新手続きの際に、障害の等級が低いと判断された場合
障害年金の受給者は、定期的に更新手続きを行う必要があります。
更新の際には提出した診断書で審査が行われますが、そこで障害状態が軽くなったと判断された場合、障害の等級が下がることがあります。
障害基礎年金は2級未満、障害厚生年金は3級未満と認定された場合、障害年金は支給停止になってしまいます。
また、更新を無視して診断書の提出を行わなかった場合も支給停止になります。
今まで払われていた年金が更新でとつぜん止まってしまうので、「年金の受給権が消滅してしまった」と勘違いする方も少なくありません。
しかしこれはあくまで「支給停止」という状態であり、受給権自体は残っています。
したがって、再開の手続き(消滅届と言います)を取ることで、いつでも年金を復活させることが出来ます。
では、もし何もしなかった場合はどうなるでしょうか。
更新で支給停止になった年金が勝手に再開することは絶対にありません。
ですから、もし支給停止の状態のまま何もしなければ、消滅したのと同じ事になります。
再開の手続きについては後述します。
(更新で支給停止になったらはこちら記事を参照してください。)
1-2.他の年金を受給することになった場合
場合によっては、障害年金、老齢年金、遺族年金の中で複数の受給権を持つことがあります。
この時、受給権者はもらいたい年金を一つだけ選択します。
年金は二本立てでは貰えませんので、選ばれなかった年金は支給停止になります。
(一人一年金の原則と言います)
マイナスの意味をもつ支給停止ではありませんが、年金の選択はなかなか難しい問題です。
自分にとって一番有利な年金を選択するわけですが、単に額が多い=有利とは限りません。
例えば障害年金は非課税ですし、就労しながら受給しても調整の対象にならないという特徴があるため、人によっては「老齢年金のほうが額が多くても、障害年金を選択したほうが得」という状況が生まることもあります。
迷う場合は専門家に相談することをお勧めします。
1-3.支給停止期間に該当した場合
障害年金の原因となった傷病が、第三者の行為による場合(交通事故などです)、加害者から損害賠償が支払われることがあります。
休業補償や逸失利益の補填という名目で賠償された場合は、障害年金とコンセプトが重なるため、年金の支払額に調整が行われます。
端的に言えば、損害賠償をもらった額のぶんだけ障害年金が支給停止になります。
損害賠償は人によっては数千万単位になります。
そうすると調整に数年、数十年分かかることもありますので、事故から36月分までが調整のリミットと決まっています。
実務上は障害認定日を待ってからの請求になりますので、1年6か月分だけ年金が調整されることが多いです。
他にも、自ら支給停止を申し出た場合は、本人が撤回申し出をするまでの間が支給停止期間となります。
1-4.20歳前の傷病による障害基礎年金特有の支給停止事由に該当した場合
初診日が20歳より前の傷病によって障害年金を受給している人は、本来要求される納付要件等がありません。
その代わりに通常の基礎年金にはない制限・調整規定があります。
“20歳前の傷病による障害基礎年金特有の支給停止事由”
- 前年の所得による支給制限
- 恩給や労災保険の年金等を受給している場合
- 海外居住中または刑務所等の矯正施設に入所している場合
「前年の所得による支給制限」は、前年の所得が3,704,000円を1円でも超えると半額停止、4,721,000円を超えた時点で全額が停止するというものです。
(20歳前障害以外の障害年金には、所得による調整規定はありません)
年収ではなく所得ベース(給与所得控除などを差し引いた額です)で計算され、扶養親族がいる場合は一人につき38万円の控除枠が増えます。
もし停止事由に該当すれば、10月分から翌年の9月分まで年金が停止または半額停止になります。
また、労災保険から補償給付が出ている場合、通常の障害年金であれば停止しません(労災側が減額されます)が、20歳前の傷病による障害基礎年金は障害年金側が停止します。
2.支給を再開させる方法
年金が支給停止になった場合、手続きをすることで受給を再開させることができます。
方法は二つあります。支給停止事由消滅届を提出する方法と、審査請求をする方法です。
順番に見ていきましょう。
2-1.支給停止事由消滅届
年金が支給停止になっている人が、その停止されている理由がなくなったことを届け出ることで、支給停止を解除してもらうことが出来ます。
この時提出するのが支給停止事由消滅届と呼ばれるものです。
<支給停止事由消滅届の画像> ※クリックで拡大
この手続きを行う時には、「もう支給停止事由に該当しなくなったこと」を証明する必要があります。
ここでは「更新で症状が軽くて支給停止にされてしまった場合」を例に説明します。
まず、この場合の支給停止事由は「障害が軽くなった事」ですから、新たに診断書を取得して「再び障害が重くなって、障害等級に該当した」ことを証明する必要があります。
もし提出した診断書により、2級(障害厚生年金の場合は3級)相当と認められれば、支給停止事由が消滅し、年金の支給が再開されます。
その再開処理は、消滅届提出の翌月分から行われます。
また、もし支給停止時点の現症日で診断書を提出することができた場合、支給停止の翌月にさかのぼって停止を解除することが出来る場合があります。
一度支給停止になってしまうと、「もう一生年金はもらえないだろう」とあきらめてしまう人も多いと思いますが、少なくとも、一度専門家に相談することをお勧めします。
2-2.審査請求
審査請求とは、簡単にいえば「審査が間違っている」という形で不服を申し立てるものです。
例えば更新で支給停止されたことに納得がいかない、その結果を覆したいという場合は、支給停止を知った日から3か月以内に審査請求の手続きを取ることで、社会保険審査官による再審査をしてもらえます。
もし認められれば、「最初から支給停止にならなかった」という結論になりますので、停止時点に遡って年金を再開させることが出来ます。
支給停止事由消滅届とは異なり、すでに提出した書類で再審査を行うという趣旨なので、再度の診断書の提出は不要です。
裏を返せば、更新の時と同じ診断書を使って審査をやり直してもらうわけですから、何か特段の理由、主張がなければ支給停止は覆りません。
審査請求については、詳しくはこの記事を参照してください。
3.まとめ
この記事は、「支給停止になってしまった人はどうすればいいか」という視点で作成しました。
「一度止まってしまったらもう2度と貰えない」「また一から新たに請求手続きをする必要がある」というような誤解をたまに耳にしますが、本文中にも書きました通り支給停止になっても受給権は消えません。
適切な手続きを取ることで、失う年金を最小限にとどめることができます。
ただし、審査請求は不支給を知ってから3か月以内に行う必要があり、それを過ぎると受け付けてもらえません。
消滅届についても、年金が再開するのは基本的には提出の翌月分からです。全員が必ずさかのぼって支給停止解除できるわけではありません。
請求できるのに放置していた場合、本当は貰えたはずの年金が消えてしまう可能性があるということです。
障害年金に限らず、知らなければ損する制度というのは意外と世の中に多くあります。
この記事を少しでも皆様の役に立てていただければ幸いです。