障害年金の請求をする際には、初診日を必ず確定する必要があります。
支給される年金の種類、納付要件のチェック、障害認定の時期など、色々なことが初診日を起点に計算されます。
この初診日確定は請求者側で行う必要があります。
もし初診日がわからない場合、年金機構は障害年金の請求そのものを受け付けてくれません。
ご自身で請求をしようとして、この初診日確定の段階でつまずいてしまう人は少なくありません。
この記事では、初診日について解説を行っていきたいと思います。
目次
1.初診日
まずは初診日の定義です。
初診日とは、障害または死亡の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日をいいます。
具体的には、「医師または歯科医師」から「治療行為又は療養に関する指示があった日」が初診日として取り扱われます。
ですから、健康診断などは原則、初診日には該当しません。
また、整骨院や鍼灸院の受診は初診として扱われません。
もし同じ傷病で病院を転院した場合は、最初の病院を受診した日が初診日となります。
2.初診日の確定
初診日の確定のためにはどのような手続きが必要なのでしょうか。
具体的には、初診の病院から「受診状況等証明書」という書類を作成してもらいます。診断書で代用することもあります。
これらの書類には発病の時期や通院までの流れ、そして初めて受診した日が明記されています。したがって初診日の証拠書類になるわけです。
<受診状況等証明書の画像> ※クリックで拡大
3.初診日に迷うケース
「最初に医師等の診察を受けた日」と言っても、場合によってはどの病院が初診になるのか、いつが初診日になるのかがはっきりしない場合があります。
この項目では、よく質問されるケースについて解説します。
3-1.複数の病名がある場合
障害年金の制度上、異なる傷病名であっても同一傷病として取り扱われる場合があります。
典型的なパターンがうつ病と発達障害で、「発達障害がベースにあって、うつ病を発症した」という考え方が取られます。
A病院でうつ病と診断され、B病院で発達障害がわかったような場合は、発達障害で請求する場合でもA病院のうつ病が初診になります。
精神疾患の場合、別の傷病名(適応障害など)で精神科にかかっていた場合は、診断名の変更とみなされ同一傷病扱いとなるケースが多いです。
単に頭痛や不眠等で通院していた場合も、それが現在の症状に繋がっていると判断され、同一傷病とみなされることがあります。
また、通院していたのが内科や婦人科であってうつ病などの診断名は受けていなくても、抗不安薬や抗うつ剤が出ていたり、精神科に通院すべきと指導されて転院したような場合は、内科等が初診とされることもあります。
なお、同一傷病ではなくても、前の疾病や負傷が無ければ、後の疾病は起こらなかったと認められる場合、その2つの傷病は「相当因果として扱われます。
その場合、前の傷病の初診日で請求をします。
例えば糖尿病がきっかけで起こる合併症が典型例です。糖尿病で長年通院した後、糖尿の合併症で失明したような場合は、眼科を受診した日ではなく、糖尿病で初めて病院を受診した日が初診になります。
3-2.知的障害で請求する場合の初診日
知的障害の初診日は出生日、つまり誕生日になります。
知的障害は、うつ病や発達障害など、他の精神疾患と併存することがしばしばあります。
この場合、初診日の取り扱いは知的障害の程度が3級以上か未満かで大きく変わります。
3級以上の知的障害とうつ病等が併存した場合、「知的障害がベースにあって、うつ病等を発症した」とみなされるため、同一疾病扱いになります。
初診日は出生日になります。
3級未満の知的障害とうつ病等が併存した場合は「知的障害とうつ病等は関係ない」とみなされ、別疾病扱いになります。
この場合、初診日はうつ病等で受診した日になります。
この時、知的障害が3級相当かの判定は、IQ70以下かどうかでざっくりと判断されているようです。
なお、知的障害を持つ人が統合失調症を発症することはほぼないので、知的障害の軽い重いに関係なく「知的障害がベースで統合失調症が発症した」という考え方はされません。
原則は別疾病として扱われます。
3-3.先天性疾患の初診日
知的障害以外の先天性の疾患(先天性心疾患や網膜色素変性症等)は、原則として症状が出現して初めて診療を受けた日が初診日になります。
先天性股関節脱臼については、生育時点ですでに完全脱臼が認められている場合のみ、出生日が初診日になります。
もし完全脱臼が認められず、青年期以降に変形性股関節症が発症した場合は、初めて診療を受けた日が初診日になります。
3-4.同一傷病が治癒して再度発症した場合の初診日
過去の傷病が医学的に治癒して、また再度発症した場合は、再発して医師等の診療を受けた日が新たな初診日になります。
ただし、うつ病やクローン病など、完治することはない疾病については医学的治癒は認められません。
その場合でも、数年間症状がなく治療の必要もなかったことを根拠に治癒が認められることがあります。
これを「社会的治癒」と言います。
3-5.初診日が変更される事例
社会的治癒や、相当因果関係などは、認められるかどうかの判断が難しいことがあります。
時には実際に請求してみないと分からない時もあり、年金機構がこちらの主張した初診日を認めず、変更してくることもあります。
特にがん等の様々な症状を引き起こす疾病については、相当因果関係の判断が困難な事例がしばしばあります。
体の異変で治療を受けており、他の病院で初めてがんと確定診断されたような場合、前の病院が初診になることが多いです。
しかし原因不明の腰痛で病院を転々としていた人が、総合病院の受診でがんと確定診断された事例で、確定診断された日に初診日を変更されたことがありました。
理由も確認しましたが、やはり明確な基準があるわけではなく、症状や確定診断に至る経緯などによって初診となる病院が決まるようでした。
4.初診日の確定が出来ない場合
実務上、初診日の確定ができないトラブルはよくあります。以下は代表的な問題とその対処法について解説していきます。
4-1.初診の書類が取れない場合
初診の病院に証明書を依頼してもカルテがなかったり、病院そのものが廃院になっているケースがあります。
その場合、「受診状況等証明書が添付できない申立書」という書類を作成して、「自分の初診日は何年何月何日です」と申し立てることになります。
制度上さらに、転院先の病院から受診状況等証明書を取得する必要があります。
この「添付できない申立書」はあくまで自己申告です。
ですから、なんらかの客観的な資料を添付して初診日を証明する必要があります。
障害者手帳の診断書や、診察券やお薬手帳など、出来るだけ証拠となるものを探して提出します。
他の病院のカルテに初診日が書かれていることもあるので、その病院で書類を作ってもらうこともあります。
場合によっては、第三者証明という書類を作成します。
これは初診日当時病院に通っていたことを第三者に証言してもらうというものです。
20歳未満に初診日がある場合は、この第三者証明だけでも初診日が認められることがあります。
その他の資料としては、警察発行の事故証明や、病院作成の計画書、サマリー、生活保護台帳などがあります。
<受診状況等証明書が添付できない申立書の画像> ※クリックで拡大
4-2.健康診断を受けていた場合
健康診断や人間ドックは原則として初診にはなりません。
しかし初診の病院にカルテがない等の理由で初診日の確定ができない時に、
健康診断等の結果が残っていて、医学的見地から直ちに治療が必要な点が明らかである場合は、例外として健康診断の日=初診日と認められるケースがあります。
4-3.初診日が一定期間にあると申し立てる場合
初診日が確定できない場合でも、病院が作成した書類や手帳の交付時期等の客観的な資料から「平成18年の秋」というように、ある程度の期間までは特定出来るという場合があります。
この時、「期間内に納付要件を満たしている」「期間内に同じ年金制度に加入している」という二つの条件を満たしていれば、
「例えその期間内のどの日であったとしても、障害基礎年金(障害厚生年金)の請求が可能」とみなされるため、年金の請求が可能になります。
なお、季節による申し立てが認められた場合、その末日(冬なら2月末日、春なら5月末日、夏なら8月末日、秋なら11月末日)が初診日として認められます。
4-4.初診日が20歳未満にあると申し立てる場合
初診日が20歳未満にある場合は、20歳前の傷病による障害基礎年金として扱われます。
納付要件はありませんので、第三者証明などを用いて20歳前に初診があることさえ証明できれば、多少アバウトな証明でも(「初診かわからないが、中学の時に〇〇クリニックに通院していた」など)年金の請求は可能になります。
ただし、20歳前に厚生年金の加入期間がある場合は、初診日が厚生年金加入期間にあるか否かを明確にする必要があります。
4-5.初診日が18歳6か月未満にある場合の特例
初診日が18歳6か月未満だった場合は、何歳であっても障害認定日は20歳で固定になります。
このとき、18歳6か月未満の受診であることを証明できれば、2番目以降の病院から初診証明を取得しても良いとされています。
例えば中学の時からA病院に通院し、17歳の時にB病院、19歳の時にC病院に転院したような場合、
原則はA病院から受診状況等証明書を取得しますが、Aを飛ばしてB病院から受診状況等証明書を取得することが認められています。
ただし、C病院は18歳6か月以降に受診しているため、この特例は使えません。
AまたはBから受診状況等証明書(取れない場合、添付できない理由書)を取得する必要があります。
“この特例が使える条件は以下の2つです。”
- 2番目以降の病院の初診日が18歳6か月未満であること
- 2番目以降の受診より前に厚生年金に加入していないこと
5.まとめ
自分で請求しようとして、初診日の確定で行き詰まる人は多いです。
初診の病院にカルテがない、初診の病院が廃院になった、初診の病院を忘れてしまった、初診だと思っていた病院に前医があって書類の取り直しになった等、トラブルの素は数えきれないほどあります。
苦労しながらもその後請求までたどりつける人はまだ良いですが、一人でそのまま諦めてしまう人も多いようです。
この記事では、初診日についての解説を一通り記載しました。
手続き自体は初診の日付を証明するというだけのシンプルなものですが、その手続きを行うためには様々な知識が要求されます。
この記事を少しでも役立てていただければ幸いです。