
人工透析を受けている方は、原則として障害年金2級に該当すると定められています。
しかし、「透析を受けているのに年金をもらっていない」という方も少なくありません。
その理由は様々ですが、年金の加入要件や納付要件を満たしていないケースもあれば、単純に制度を知らないために請求していない、という方もいらっしゃいます。
せっかく受けられるはずの年金を、情報不足のために請求できないのはもったいないことです。
この記事では、人工透析を受けている方が障害年金を受給するための方法と、申請時の重要なポイントを分かりやすく解説します。
目次
1.人工透析の障害等級は原則「2級」
人工透析を受けている場合の障害等級は、原則として「障害年金2級」と定められています。
これは、透析が生命維持に不可欠であり、日常生活や就労に大きな制約が生じるためです。
ただし、以下の3つの点には特に注意が必要です。
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2.糖尿病性腎症による人工透析の場合の注意点
人工透析の相談の中でも、最も多いのが糖尿病性腎症によるものです。
糖尿病が原因で腎臓の機能が低下し、最終的に人工透析に至るケースでは、障害年金の請求において重要なポイントがあります。
「初診日」は「糖尿病で初めて病院にかかった日」になります。
よくある間違いとして、「腎臓の症状で初めて病院にかかった日」を初診日と捉えてしまうケースがありますが、これは正しくありません。
糖尿病性腎症の場合、腎臓病の根本原因は糖尿病であるため、糖尿病と診断され、初めて医療機関を受診した日が「初診日」となります。
そのため、人によっては人工透析を開始する10年前、20年前に初診日があることも珍しくありません。
初診日を特定することは、年金加入要件を満たしているかを確認する上で非常に重要です。
3.その他の腎不全による人工透析の場合の注意点
人工透析の初診日は、人工透析を開始した日ではありません。
人工透析の導入に至った原疾患(原因となった病気)で初めて医療機関を受診した日が初診日となります。
例えば、慢性腎炎や多発性嚢胞腎など、様々な原因で腎不全に至る場合がありますが、それぞれの原因疾患の初診日が重要となります。
また、人工透析の障害等級は原則2級ですが、以下の特定の状況下では1級として認められる可能性があります。
【悪性高血圧症による人工透析で1級になる場合】
ただし、単に悪性高血圧症と診断されただけでは1級にはなりません。
「全身症状の急激な悪化を示し、血圧、腎障害の増悪とともに、脳症状や心不全を多く伴う」など、極めて重篤な状態であると判断された場合に1級が認定されることがあります。
この判断は非常に専門的であり、医師の診断書の内容が重要となります。
4.「このままだと人工透析になる」と言われた場合
まだ人工透析に至っていなくても、「このままだと人工透析になる」と医師から告げられた方は、早めに以下の準備を進めることをお勧めします。
4-1.初診の証明を早めに取得する
特に糖尿病が原因の場合、前述の通り初診日がかなり遡ることがあります。
カルテの保管期間には限りがあるため、初診の証明(受診状況等証明書など)はできるだけ早く取得しておくことが重要です。
4-2.現時点で請求できるかを確かめる
実は、人工透析を導入していなくても、慢性腎不全の症状や検査数値によっては障害年金を請求できる可能性があります。
障害年金の認定基準では、慢性腎不全の重症度を測る指標として、以下の検査項目が用いられます。
検査項目 | 単位 | 軽度異常 | 中等度異常 | 高度異常 |
内因性クレアチニンクリアランス | ml/分 | 20~30未満 | 10~20未満 | 10未満 |
血清クレアチニン | mg/dl | 3~5未満 | 5~8未満 | 8以上 |
この表で「中等度異常」に該当する時点で、障害年金2級または3級の可能性が出てきます。
特に、血清クレアチニン値が5~8mg/dl未満であれば、日常生活にどの程度の支障が出ているか(倦怠感、食欲不振、むくみ、貧血などで「起床が困難なレベル」など)が考慮され、障害年金の対象となることがあります。
「高度異常」に該当する数値であれば、ほぼ間違いなく人工透析の導入を告げられるレベルです。
5.まとめ
ご自身の検査数値と、日常生活での自覚症状(倦怠感、食欲不振、むくみ、貧血など)を照らし合わせ、「中等度異常」の数値が出ており、かつ「起床ができないレベル」まで生活に支障が出ている場合は、人工透析開始前であっても障害年金の請求を検討する価値があります。
ご自身の状況で障害年金が受給できるか不安な場合は、専門家にご相談いただくことをお勧めします。
障害年金の申請手続きは複雑に感じるかもしれませんが、受給することで生活の支えとなる大切な制度です。
ご自身の状況に合わせて、適切な手続きを進めましょう。