多発性硬化症は、脳や脊髄、視神経など、中枢神経系のあちこちに病変ができ、さまざまな神経症状が再発と寛解を繰り返しながら進行する自己免疫疾患です。
病変ができる場所によって症状が異なり、人それぞれ多様な症状が現れるのが特徴です。
そのため、障害年金の申請においても、どの症状に着目して申請するかが重要になります。
この記事では、多発性硬化症の方が障害年金を請求する際のポイントを、主な症状別に解説します。
目次
1.多発性硬化症とは
多発性硬化症は、中枢神経系の神経線維を覆うミエリン鞘が破壊されることで、神経の情報伝達がうまくいかなくなる病気です。
病変は時間的・空間的に多発するため、症状は出現したり消えたり(再発・寛解)、徐々に進行したりと多様な経過をたどります。
主な症状としては、以下のようなものがあります。
視力障害・眼の症状: 視神経炎による視力低下、複視(物が二重に見える)など
感覚障害: しびれ、痛み、感覚の鈍麻など
運動障害: 手足の麻痺、脱力、歩行困難、協調運動障害(ふらつき、手の震えなど)
平衡機能障害: めまい、ふらつき、バランス感覚の低下
排泄機能障害: 頻尿、尿失禁、便秘など
精神・認知機能障害: 記憶力低下、集中力低下、思考力の低下、うつ状態など
疲労: 他の病気では説明できないほどの強い疲労感
構音障害・嚥下障害: 話しにくい、食べ物を飲み込みにくいなど
これらの症状は、個々の患者さんによって現れ方や重症度が大きく異なります。
2.障害年金の請求方法とポイント
多発性硬化症による障害年金は、原則として症状が出始めた「初診日」が重要になります。
初診日を特定し、その時点で年金保険料の納付要件を満たしているか確認しましょう。
多発性硬化症は、その症状が多岐にわたるため、認定基準も複数の障害にまたがって判断されることがあります。
ご自身の主な症状に応じて、どの障害として請求するかを見極めることが重要です。
2-1. 肢体(運動機能)の障害
多発性硬化症で最もよく見られる障害の一つが、手足の脱力、麻痺、しびれ、感覚異常、歩行困難、平衡感覚の障害などの運動機能の障害です。
これらの症状は、日常生活や就労に大きな影響を与えるため、障害年金の申請で主要な判断基準となることが多いです。
で障害年金を請求する場合、以下の点が特に重要になります。
【主な症状の具体例】
筋力低下と麻痺: 手足の筋肉の力が弱まり、思うように動かせなくなります。重症化すると、麻痺によって歩行が困難になったり、寝たきりになる場合もあります。
感覚異常: しびれ、ピリピリ感、灼熱感、痛みなど、様々な感覚異常が起こることがあります。触覚が鈍くなったり、逆に過敏になったりすることもあります。
歩行障害: バランスを崩しやすくなったり、歩く速度が遅くなったり、歩行そのものが困難になることがあります。
協調運動障害: 手足の動きがぎこちなくなったり、箸を使う、ボタンをかけるといった細かい作業が難しくなったりします。
痙性(けいせい): 筋肉の緊張が強まり、手足が突っ張ってスムーズに動かせなくなることがあります。
振戦(しんせん): 手足が小刻みに震えることがあります。
これらの症状は、病気の進行度合いや病変の部位によって異なり、また、症状の現れ方や程度も個人差があります。
症状が一時的に改善する「寛解」と、症状が悪化する「再発」を繰り返す場合もあります。
【評価のポイント】
機能障害の程度: 筋力低下や麻痺によって、具体的にどのような動作がどの程度制限されているか (例:片足立ちができない、階段の昇降が困難、箸が使えないなど)
日常生活動作の制限: 歩行、立ち上がり、着替え、食事、入浴、排泄などの基本的な日常生活動作が、どの程度一人でできるか、介助が必要か
装具や補助具の使用: 車椅子、杖、装具などの使用状況
症状の持続性・変動性: 症状が一時的なものか、持続しているか。再発と寛解を繰り返す場合は、症状が重い期間や頻度も考慮されます
医師の診断書: 医師に、具体的な症状の内容、身体機能の制限、日常生活への影響を詳細に記載してもらうことが非常に重要です。 特に、客観的な検査数値や、麻痺の程度を示すグレード(MMTなど)が記載されていると、よりスムーズな審査につながります
2-2. 平行機能の障害
多発性硬化症では、めまいやふらつき、バランス感覚の低下といった平衡機能の障害もよく見られます。
【評価のポイント】
めまいの頻度と程度: 日常生活にどの程度支障があるか(例:めまいのため外出が困難、歩行中に転倒しやすいなど)
ふらつきの状況: 起立時、歩行時、方向転換時など、どのような場面でふらつきが生じるか
日常生活への影響: めまいやふらつきにより、通勤、通学、家事、買い物などがどの程度制限されているか
2-3. 精神・神経の障害(高次脳機能障害を含む)
多発性硬化症は、脳の病変により、精神症状や認知機能の低下を引き起こすことがあります。
【主な症状の具体例】
認知機能障害: 記憶力低下、集中力低下、思考力の低下、判断力の低下など
精神症状: うつ状態、不安、感情のコントロールが難しいなど
【評価のポイント】
精神症状の程度: 精神科医の診断や、日常生活への影響(意欲の低下、人との交流を避けるなど)。
認知機能の評価: 神経心理学的検査の結果や、具体的な生活上の困難(忘れ物が多い、計画を立てられない、複雑な作業ができないなど)。
就労や対人関係への影響: これらの症状が原因で、仕事や社会生活がどの程度制限されているか。
2-4. その他の障害(視力障害、排泄機能障害など)
多発性硬化症は、肢体症状以外にも、様々な症状を引き起こす可能性があります。
これらの症状が重い場合は、それぞれが独立した障害として評価されることがあります。
【主な症状】
視力障害: 視神経炎による著しい視力低下や視野狭窄。
排泄機能障害: 頻尿、尿失禁、便秘などが日常生活に大きな支障をきたしている場合。
疲労: 他の病気では説明できないほどの強い疲労感で、日常生活や就労が困難な場合。
【評価のポイント】
視力障害: 矯正後の視力、視野の欠損範囲など
排泄機能障害: 頻度、状況、QOL(生活の質)への影響など
疲労: 客観的な評価は難しいですが、医師の診断書でその程度と日常生活への影響を具体的に記述してもらうことが重要です
3.まとめ
多発性硬化症の症状は多岐にわたり、変動することもあるため、障害年金の申請には専門的な知識が必要となる場合があります。
ご自身の症状がどの障害に該当するか、どのような書類が必要かなど、ご不明な点があれば、社会保険労務士などの専門家や、地域の年金事務所に相談してみることをお勧めします。