「成年後見制度」は,
認知症、知的障害、精神障害などが原因で、ご自身で物事を判断したり、契約や手続きを進めることに不安や心配がある方をサポートするための制度です。
この制度を利用することで、ご本人の権利や財産が守られ、安心して日常生活を送れるようになります。
成年後見制度には、「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
目次
1.法定後見
「法定後見」は、すでに判断能力が低下している方のために、ご家族などが家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人を選任してもらう制度です。
ご本人の判断能力の程度に応じて、「補助」「保佐」「後見」の3つのタイプがあります。
現在、最も多く利用されているのは「後見」タイプで、利用者全体の約8割を占めています。
「後見」の対象となる方は、3つのタイプの中で最も判断能力の低下が進んでいる方で、多くの手続きや契約をご自身で行うことが難しい場合です。
ここからは、法定後見のうち「後見」について詳しくご説明します。
1-1.「後見」を利用するときの流れ
法定後見制度の利用を検討する際は、まず、お住まいの地域の市区町村の権利擁護センター、地域包括支援センター、社会福祉協議会、弁護士会、司法書士会などの相談窓口に問い合わせてみましょう。
成年後見制度の利用手続き、必要書類、成年後見人候補者について、事前に相談できます。
申し立てには、申立書などの書類と、申立手数料などの費用が必要です。
手続きは、一般的に以下の流れで進み、申し立てから成年後見人が選任されるまで、目安として1〜4ヶ月程度かかります
【後見開始の申立て】
ご本人、配偶者、四親等内の親族などが、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。申し立てに必要な主な書類と費用は以下の通りです。
- 申立書(書式は、全国の家庭裁判所の窓口やホームページで入手できます。)
- ご本人の診断書(書式は、全国の家庭裁判所の窓口やホームページで入手できます。)
- 申立手数料 収入印紙800円分
- 登記手数料 収入印紙2,600円分
- 郵便切手(裁判所からの連絡用)
- ご本人の戸籍謄本など
- ご本人の財産に関する資料
・預貯金及び有価証券の残高がわかる書類:預貯金通帳写し,残高証明書など
・不動産関係書類:不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)など
・負債がわかる書類:ローン契約書写しなど - ご本人の収入・支出に関する資料
・収入に関する資料の写し:年金額決定通知書,給与明細書,確定申告書など
・支出に関する資料の写し:施設利用料,入院費,納税証明書,国民健康保険料等の決定通知書など
【裁判所による調査】
申し立て後、家庭裁判所の職員が、申立人、成年後見人候補者、ご本人に事情を聞いたり、ご本人の親族に成年後見人候補者について尋ねたりすることがあります。
また、必要に応じて裁判官がご本人から直接、希望や気持ち、心身の状況、暮らし方などを聞き取ることもあります。
また,必要に応じ,裁判官がご本人に希望や気もち、からだの様子や暮らし方などをたずねることもあります。
ご本人について鑑定が行われることもあります。この鑑定費用は、申立人が負担する場合があります。。
【裁判所による審判(後見の開始,成年後見人の選任)】
家庭裁判所は、後見開始の審判と同時に、最もふさわしいと判断した方を成年後見人に選びます。
法定後見では、ご本人が成年後見人を選ぶことはできません。
これは、ご病状などにより、ご自身にとって不利益な人物を選んでしまう可能性があるためです。
そのため、成年後見人は家庭裁判所によって選任されます。
事情によっては、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家や、親族以外の第三者が選ばれることが多くなっています。
【成年後見人に選ばれるのは誰?】
最高裁判所事務総局家庭局が発表している「成年後見関係事件の概況ー2025年7月3月の情報」によるとという資料によると、配偶者や親兄弟などの親族が成年後見人に選ばれている割合は約17.1%と2割以下です。
一方で、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人に選ばれるケースが8割を超えています。
ただし、これは成年後見人候補者自体に親族が少ない(約21.3%)という背景もあるため、「親族が成年後見人になりにくい」と一概には言えません。
【成年後見人に慣れない人は?】
未成年者や、過去に成年後見人を解任されたことのある人などは、成年後見人になることはできません。
【成年後見人の報酬について】
成年後見人への報酬は、仕事の内容などを考慮して家庭裁判所が定めます。
この報酬は、ご本人の財産の中から支払われます。
一般的な目安として、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人となった場合、1ヶ月の報酬額は2万円程度であり、業務内容に応じて追加されることがあります。
親族が成年後見人となった場合や、専門的な研修を受けた市民後見人が選任された場合は、これよりも報酬額が低くなる傾向にあります。
1-2.「後見」の利用が考えられる具体例
「後見」の利用が検討される具体的なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
老人性の認知症により、判断能力が常に欠けている状態となり、介護サービスの契約や財産管理が必要になった場合。
統合失調症が悪化し入院中の子が、親の死亡により相続が発生したが、引き続き医療や福祉サービスを受け、相続手続き (自宅の登記、自動車の処分など)を進める必要が生じた場合。
交通事故により、判断能力が常に欠けている状態となり、その方に代わって保険金(損害賠償)の請求を行う必要が生じた場合
1-3.受けられるサポートの範囲
成年後見人が行うサポートの範囲は、ご本人の判断能力の程度によって異なります。
後見タイプの場合、原則としてすべての契約などを成年後見人がご本人に代わって行うことができます(ただし、手術の同意や遺言書の作成など、ご本人にしかできない行為は除きます)。
また、ご本人が判断能力が不十分な状態で行ってしまった不当な契約を取り消すこともできます。
成年後見人は、ご本人の意思を尊重しながら、お金の管理やさまざまな契約・手続きをサポートします。
【成年後見人ができること】
- 福祉サービス・介護の手続や契約のお手伝い
- 保険料や税金の支払やお金の出し入れのお手伝い
- よくわからずにした契約の取消し
- 定期的な訪問や状況の確認
- 入院や施設への入所の手続のお手伝い
- 書類の確認や施設などへの改善の申し入れ
【成年後見人に依頼できないこと】
- 食事をつくったり、掃除をしたりしてもらうこと
- ティッシュなどの日用品の買いものを代わりにしてもらうこと ※高価なものを買うときは、成年後見人に決めてもらったり、一緒に決めることが必要になります。
- 手術をするしないを決めてもらう、実際に介護をしてもらうこと
- 毎日のように来てもらったり、話相手になってもらうこと
2.任意後見
「任意後見」制度は、法定後見とは異なり、ご自身がまだお元気で判断能力があるうちに、将来に備えてご自身で任意後見人を選び、代理してもらいたいこと(委任事務)を契約で決めておく制度です。
任意後見契約は、公証人が作成する公正証書によって結ぶ必要があります。
契約後、ご本人の判断能力が低下し、ご自身で物事を決めることに不安が生じた場合に、家庭裁判所に「任意後見監督人選任」の申し立てを行います。
この申し立ては、ご本人、配偶者、四親等内の親族、または任意後見受任者(将来、任意後見人となることを引き受けた人)が行うことができます。
その後、家庭裁判所が職権で「任意後見監督人」を選任することで、任意後見が開始されます。
2-1.「任意後見」を利用するときの流れ
申立てには、申立書などの書類や、申立手数料などの費用が必要です。
1.任意後見開始(任意後見監督人選任)の申立て
ご本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者が、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。
ご本人以外の方が任意後見監督人選任の審判を請求する場合、原則としてご本人の同意が必要です(ただし、ご本人が意思表示できない場合は不要です)。
- 申立書(全国の家庭裁判所の窓口やホームページで書式を入手できます。)
- ご本人の戸籍謄本など
- 任意後見契約公正証書の写し
- ご本人の成年後見等に関する登記事項証明書
- ご本人の診断書(書式は、全国の家庭裁判所の窓口やホームページで入手できます。)
- 申立手数料 収入印紙800円分
- 登記手数料 収入印紙1,400円分
- 郵便切手(裁判所からの連絡用として必要です。金額は各家庭裁判所によって異なりますので、事前に確認しましょう)
- ご本人の財産に関する資料
(預貯金及び有価証券の残高がわかる書類:預貯金通帳写し,残高証明書など)
ご本人について鑑定が行われることもあります。この鑑定費用は、申立人が負担する場合があります。。
2.任意後見監督人が選任される
任意後見監督人が選任されると、任意後見人はその監督のもと、任意後見契約で定められた特定の事務をご本人に代わって行うことができるようになります。
任意後見監督人は、任意後見人が適切に職務を行っているかを監督し、家庭裁判所に定期的に報告を行います。
その他、任意後見人が病気などで職務遂行が困難になった場合に必要な行為をしたり、任意後見人とご本人の利益が相反する行為などについて、ご本人を代理することが認められています。
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3.その他の後見人
成年後見人には、親族や専門家以外にも、以下のような選択肢があります。
3-1.市民後見
「市民後見」とは、ご本人の近所に住む一般の市民が成年後見人となることです。
市民後見人として活動するには、多くの場合、自治体が実施する市民後見人養成研修を受講し、その自治体に市民後見人候補者として登録される必要があります。
3-2.法人後見
「法人後見」とは、社会福祉法人やNPO法人などの法人が成年後見人となることです。
4.それぞれの制度の長所、短所
【取消権の有無】
・法定後見: 成年後見人には取消権が与えられています。これは、ご本人が判断能力が不十分な状態で行ってしまった不当な契約などを後から取り消すことがで きる権利です。取消権があることで、ご本人の財産をより確実に保護できるという長所があります。
任意後見: 任意後見人には原則として取消権が認められていません。そのため、ご本人が不当な契約を結んでしまった場合、別途裁判を起こして争う必要があり、法定後見と比べて手続きが煩雑になる可能性があります。
【後見人の選び方】
法定後見: ご本人の意思に関わらず、家庭裁判所が成年後見人を選任します。
任意後見: ご本人が信頼する人物を任意後見人に選び、将来依頼したい具体的な内容を契約で決めておくことができます。
【法人後見の調書・短所】
長所: 個人の成年後見人と異なり、担当者に万一のことがあっても、他の職員が業務を引き継ぐことができるため、後見業務が中断することなく継続できます。ご本人が比較的若く、長期間のサポートが必要なケースに適しています。
短所: 業務が事務的になり、人間的な関係が希薄になる可能性があると言われることがあります。
【後見し開始の申立て】
〇市民後見の長所、短所
長所: 身寄りのない方や収入が低い方でも利用しやすく、同じ地域に暮らす人が成年後見人となることが多いため、より身近で寄り添う形の支援が期待できます。
短所: 成年後見業務の重要性に比べて報酬が低額(または無償)であるため、担い手不足が懸念されます。特に地方では、近隣住民に財産状況を知られることに抵抗を感じる方もいるかもしれません。
5.まとめと今後の展望
今後も成年後見制度を必要とする高齢者などは確実に増えていくと予想されます。
そのため、制度がより利用しやすくなるための改善が求められています。
注目されているのは、成年後見人の一時的な利用(単発の利用)を認めるという考え方です。
現在の制度では、原則としてご本人が亡くなるまで成年後見人の業務は継続しますが、これを例えば「保険料や税金の支払い」「不動産の売却手続き」「入院や施設への入所手続き」など、特定の重要なことだけを成年後見人に依頼できるようにするものです。
これまでは、成年後見人に依頼した業務が一段落しても、制度の利用自体をやめることができず、利用しにくい面がありました。
そこで、政府は、成年後見人の一時的な利用の導入のほか、成年後見人の交代を容易にすること、成年後見人に支払う報酬の計算を分かりやすくすることなど、制度の見直しを進める計画を立てています。
これらの見直しにより、成年後見制度がより柔軟で利用しやすいものになることが期待されます。