年金の請求には時効があります。老齢年金や遺族年金、そして障害年金の時効は「5年」です。
しかし、「5年経つと障害年金が請求できなくなる」というわけではありません。
障害年金の時効の考え方は少し複雑なので、詳しい方でも混乱することがあるようです。
この記事では障害年金と時効について解説します。
1.受給権(基本権)は5年経過しても消えない
実は、「年金の受給権は5年経過すると時効で消滅する」と年金法で定められています。
ですが、このことはあまり問題になりません。
まず、障害年金の受給権というのはいつ生まれるのでしょうか。
これは請求方法によって二種類に分かれます。事後重症請求の場合は「請求した時」、認定日請求の場合は「障害認定日の時」です。
事後重症請求の場合は「請求した時」から受給権が発生しますので、いつ請求したとしても時効の問題にはなりません。
では認定日請求で、しかも5年以上前に障害認定日がある場合はどうなるでしょうか。
受給権が発生してから5年以上放置しているので、この場合は「受給権は時効で消えて消滅する」はずです。
ですが、日本年金機構は「やむを得ない事情により、時効完成前に請求をすることができなかった場合は、その理由を書面で申し立てていただくことにより、基本権を時効消滅させない取扱い」を行っています。
具体的には、以下のような申立書を提出することで、5年以上さかのぼって請求することが認められています。
<年金裁定請求に遅延に関する申し立て書の画像> ※クリックで拡大
ですから、障害年金の受給権が時効で消えてしまい、請求自体ができなくなるということは実際にはありません。
2.毎月の年金をもらえる権利(支分権)は5年で時効
支分権というのは、受給権によって発生した年金を受ける権利を言います。
令和4年6月に障害年金を事後重症で請求すると、令和4年7月分から年金が発生します。
そうすると、「7月分の年金をもらえる権利」「8月分の年金をもらえる権利」「9月分の年金をもらえる権利」という風に毎月権利が生まれていきます。
この月ごとの権利を支分権と言います。
障害年金の場合、実際に支払われるのは2か月に1回、偶数月の15日に前月分までが払われます。
この支分権は、5年で消滅します。
例えば平成28年1月に障害認定日がある人が、障害年金を令和4年6月に請求したとします。
遡って受給権が認められれば、平成28年1月から権利が発生します。
そうすると本当なら平成28年2月分、3月分、4月分…と支分権が生まれていきます。
しかし、支分権は5年で時効消滅しますから、5年前までの権利はすべて消えます。
そうすると平成28年はすでに6年前ですから、まとめて消えてしまうことになります。
では、正確にはいつの時点から年金がもらえるのでしょうか。
2-1.時効消滅の考え方
年金を遡って請求する場合は、「支払期月の翌月の初日から五年を経過したときは、時効によって消滅」という判定を行います。
支払期日というのは年金の支払日である偶数月の15日です。
その翌月1日から5年が経過したとき、その月に払われるはずだった年金が時効で消えていきます。
例えば、平成29年4月15日に支給される年金は、令和4年の5月1日が経過したときに消えます。
平成29年6月15日に支給される年金は、令和4年の7月1日が経過したときに消えます。
実際には逆に考えます。
令和4年6月の請求の場合、直近の奇数月の1日は「5月1日」です。
令和4年5月1日を経過したときに、平成29年4月15日に支給される年金が消えます。
平成29年4月15日に支給されるはずだった年金は、平成29年の2月分と3月分です。
ですから、「平成29年4月分から現在までの年金が遡って支給される」という風に考えます。
請求が少し遅れて、令和4年7月1日が経過すると、平成29年6月15日時点で支給されていた平成29年4月、5月分も消えてしまいます。
2-2.時効消滅の具体例
実際は、時効の考え方は計算するよりも早見表で処理した方が早いです。
請求日 | 時効で消滅する支分権 |
1月2日~3月1日 | 6年前の11月分まで |
3月2日~5月1日 | 5年前の1月分まで |
5月2日~7月1日 | 5年前の3月分まで |
7月2日~9月1日 | 5年前の5月分まで |
9月2日~11月1日 | 5年前の7月分まで |
11月2日~1月1日 | 5年前の9月分まで(1/1の場合、6年前) |
3.まとめ
基本権や支分権という言葉は難しいですが、結論は単純です。
受給権は5年放置しても消えないので、何年さかのぼっても請求は出来ます。
ただし、さかのぼって年金をもらえる権利は5年分までです。
これだけの話なので、実はそんなに複雑ではありません。
しかし「貰えるはずの障害年金が、認定日から5年経つと消えてしまう」というのは単純にもったいない話です。
自分が年金を貰えるかもしれない、と思ったら、まずは調べてみることをお勧めします。