「70歳なんですけど、障害年金の請求はできますか?」
「障害年金の請求が出来るのは、65歳までって聞いたんですけど…」
こういう高齢者の方からの相談を受けることが多いです。
この記事では、60歳以上の人が障害年金を受ける場合について解説を行います。
目次
1.60歳以上で事後重症請求する場合
事後重症請求は65歳に達した時点(65歳の誕生日の前日)から出来なくなります。
また、老齢年金の繰り上げ請求をした場合は請求が出来なくなります。
言い換えれば、(老齢年金の繰り上げ請求をしていなければ)65歳の誕生日の前々日までならいつでも障害年金を請求することが出来ます。
“事後重症請求が出来なくなる時”
- 65歳に達した時(65歳の誕生日の前日)
- 老齢年金の繰り上げ請求を行った時
2.60歳以上で認定日請求をする場合
納付要件、加入要件を満たしていれば、65歳が過ぎても認定日請求が可能です。
ただし、老齢年金の繰り上げ請求を行った場合は請求できなくなる場合があります。
詳しくは後述します。
3.60歳以降に初診日がある場合の取り扱い
障害年金を請求するためには、初診日に国民年金・厚生年金に加入している必要があります。
しかし60歳を過ぎると国民年金の強制加入がなくなることで、「初診日に年金制度に加入していないので障害年金を請求できない」という可能性が出てきます。
また、納付要件の見方も変則的になります。
3-1.60歳以降の納付要件
通常は初診日の前々月から納付要件を見るのですが、初診日が60歳以降で未加入の場合、直近の被保険者期間までさかのぼります。
任意加入がある場合は最後に任意加入した月までさかのぼります。加入がなければ60歳時点までさかのぼります。
そこから直近一年要件、または3分の2要件を見ます。
直近一年要件を見るうえで、未加入期間が間に挟まる場合でも、未納扱いにはなりません。
また、初診日が65歳以降の場合、直近一年要件は使えなくなります。
3-2.60歳以降の加入要件
原則として、初診日に加入要件を満たしていない場合は障害年金を請求できません。
ですから、初診日の時点で国民年金に任意加入しているか、または厚生年金に加入している必要があります。
ただし初診日に65歳未満だった場合は、未加入でも障害年金を請求できる可能性があります。
年金法で「初診日に被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満である者」については障害年金を出すという規定があるからです。
しかしこれが適用されるのは、障害認定日までに老齢年金の繰り上げ請求をしていない場合に限ります。
以下は初診日の年齢と障害年金請求可否の早見表です。〇は障害年金が請求可能、△は条件付き、×は請求不可です。
初診日の年齢 | 初診日に厚生年金の加入なし | 初診日に厚生年金の加入あり |
20~60歳 | 〇 | 〇 |
60~65歳 | △(可能なケースと不可なケースあり・後述) | 〇 |
65~70歳 | ×(請求できない) | △(2級以上でも障害厚生年金のみの請求) |
70歳~ | ×(請求できない) | ×(請求できない) |
※国民年金は65歳以降も特例任意加入、厚生年金は70歳以降も高齢任意加入が可能です。
特例任意加入や高齢任意加入する人は、老齢年金受給資格を得るための期間(120月)の納付がない場合になるため、初診日時点で納付要件を満たせないものと思われます。
3-3.繰り上げ請求をした後も認定日請求が可能になる場合
60歳以降に繰り上げ請求をした場合について、さらに詳しく説明します。
鉄則として、繰り上げ請求をした時点から、事後重症請求は出来なくなりますので、可能なのは認定日請求のみです。
認定日請求が出来るかどうかは、初診日時点での加入機関を見ます。
以下の3パターンについては、繰り上げ請求をしていても障害年金が請求できます。
① 初診日に厚生年金加入だった場合
② 初診日に60歳未満だった場合(60歳未満は繰り上げが出来ません)
③ 初診日に60~64歳で国民年金に任意加入していた場合(繰り上げをすると任意加入ができません)
※初診日に厚生年金に加入していた場合は、初診日時点ですでに繰り上げ請求をしていたとしても認定日請求ができます。
なお、②③については「初診日に繰り上げをしていた」という状況にはならないため、その後に繰り上げをしていたとしても認定日請求ができます。
3-4.繰り上げ請求をした時点で、認定日請求が出来なくなる場合
注意が必要なのは「初診日時点で年金に加入していなかった場合」です。
この場合は、障害認定日が繰り上げ請求より前だった場合のみ、認定日請求が可能になります。
初診日の状態 | 初診日が繰り上げ請求の前 | 初診日が繰り上げ請求の後 |
年金に加入していなかった | △(認定日が繰り上げより前にある場合のみ可) | × |
国民年金に任意加入していた | 〇 | -(任意加入出来ない) |
厚生年金に加入していた | 〇 | 〇 |
4.その他
65歳に達すると、事後重症と同様に、初めて1級、初めて2級の請求もできなくなります。
また、今までに一度も2級以上に該当したことがない障害厚生年金の受給者は、障害が増進した場合でも額改定請求が出来なくなります。
5.まとめ
制度はかなり複雑ですが、実務上は相談者が65歳を超えていた時点で「請求は無理です」という案内をすることが大半になります。
理論上は、加入要件と納付要件さえ満たしていれば、80歳でも90歳でも認定日請求は出来ます。
しかし実際に何十年も前の診断書を取得して認定日請求で…となると非常に困難です。
また、65歳を超えると老齢年金が開始されますが、障害年金と老齢年金を二本立てで貰うことはできません。
ですから、仮に障害年金を請求できたとしても金銭的なメリットが全くないというケースが珍しくありません。
ただ、中には老齢年金もほとんど出なくて、障害年金の受給権を取っておきたいけれど、もう65歳を過ぎてしまったという人もいらっしゃいます。
出来る限り認定日請求を行うことをお勧めします。