障害年金を請求するためには、初診日を確定する必要があります。
初診日とは、「障害の原因となった傷病について初めて医師等の診療を受けた日」とされています。
しかし、原因となった傷病よりも前に、相当因果関係のある傷病で受診していた場合は、そちらが初診になります。
この記事では、初診日を決定する「相当因果関係」という考え方について解説します。
目次
1.相当因果関係とは?
少し難しい話ですが、まずは「相当因果関係とは何か」を説明します。
障害年金を請求する際には、原因となった傷病で初めて病院にかかった日を初診日として請求します。これが基本です。
ですから、腎臓の機能不全による人工透析になった場合、通常は腎不全で初めて病院にかかった日を初診日とします。
ですが、その前から関連性のある傷病で通院していた場合はどうなるでしょうか?
障害年金の制度上、「前の疾病又は負傷がなかったならば、後の疾病が起こらなかった」と認められる場合は、相当因果関係ありとみて前後の傷病を同一傷病として取り扱います。
代表的なものには、糖尿病と糖尿病性腎症があります。具体例でみていきましょう。
ある人が20年前から糖尿病で病院を受診していました。ですが、目立った症状はありませんでした。
ところが、今年になって腎臓が急に悪化し、人工透析で障害年金を請求することになりました。
この場合、初診日は腎臓で初めて病院にかかった今年ではなく、20年前ということになります。
仮に20年間腎臓はなんともなかったとしても、「糖尿病があるから糖尿病性腎症が発症した」という因果関係が認められるからです。
これが相当因果関係の考え方です。
“相当因果関係が問題になる場合”
- 原因となった傷病よりも前に、関連のある傷病で受診していた場合
- 前の疾病又は負傷がなかったならば、後の疾病が起こらなかったと認められる場合
2.相当因果関係が認められる場合、認められない場合
「Aという傷病がなければBという病気は発生しなかった」というのが相当因果関係の基本的な考え方です。
認定基準で、相当因果関係があるものとしていくつかの傷病が例示されています。まずはそれを見ていきましょう。
2-1.相当因果関係がほぼ認められるケース
障害年金認定基準の認定要領で、以下の傷病については相当因果関係を認めるとしています。
糖尿病 | ・糖尿病性網膜症 |
糸球体腎炎 | ・慢性腎不全 |
肝炎 | ・肝硬変 |
結核(化学療法) | ・副作用による聴力障碍 |
手術等による輸血 | ・肝炎 |
ステロイドの投薬 | ・大腿骨骨頭壊死 |
事故 | ・(器質的な)精神障害 |
肺疾患 | ・呼吸不全(肺疾患から呼吸不全発生までの期間が長いものでも、相当因果関係ありとして取り扱う) |
転移性悪性新生物 | ・原発とされるものと組織上一致するか否か、転移であることを確認できたもの |
2-2.相当因果関係がほぼ認められないケース
認定要領で「認めない」としているのは以下です。
高血圧 | ・脳内出血または脳梗塞 |
糖尿病 | ・脳内出血または脳梗塞 |
近視 | ・黄斑部変性、網膜剥離または視神経萎縮 |
ポリオ | ・相当期間が経過した後に発症したポリオ後症候群(ポストポリオ) |
なお、相当因果関係が認められる可能性があるのは前発の傷病(負傷or疾病)と後発の疾病です。
後発の負傷に相当因果関係が認められることはありません。
例えば末期がんで体が動かなくなった患者が、そのために転倒して足を骨折したような場合でも、がんと骨折に相当因果関係は認められません。
あくまで認められるのは「疾病」のみです。
3.事例からみる相当因果関係
以上の例示はあくまで一部です。実務上、例示にない傷病については「相当因果関係が成立するかどうか」の判断が必要になる時があります。
相当因果関係が認められるかによって初診日が変わります。
初診日が変われば、納付要件の有無や加入制度(国年or厚年)、認定日請求の可否など、あらゆることが変わります。
場合によっては「相当因果関係が認められるかどうかで、請求できるかどうかが決まる」というケースもあります。
認定基準や先例を見ても判断困難な場合は審査センターに問い合わせたり、それでも不明な場合は医師に確認を行います。
ただ、単純に医学的な因果関係で決まるわけではないという点も難しいところです。
以下は判断が困難だったケースについて、実際の事例から見ていきます。
3-1.相当因果関係が認められたケース
以前に網膜剥離で1回だけ病院を受診した人が、その後白内障でほぼ失明状態になり、障害年金を請求した事例がありました.
現在の医師に確認したところ「網膜剝離と白内障には因果関係がないと思われる」との事だったため、その旨を申し立てて白内障を初診として提出しました。
しかし、認定医の判断で相当因果関係があるとされ「網膜剝離が初診である」として返戻になりました。
この時は網膜の状態から、網膜剥離も現在の障害状態に関連性があるとして相当因果関係が認められたとの事でした。
この事例のように「〇〇があるから××が発生した」という医学的な関係がなかったとしても、障害年金の制度上は相当因果関係を認められることがあります。
3-2.相当因果関係が認められないケース
医学的に相当因果関係があったとしても、制度上認められない場合もあります。
典型例が高血圧からくる脳出血です。
例え医師が「高血圧からくる脳出血です」と言ったとしても、実務上は相当因果関係が認められることはまずありません。
理屈としては、「高血圧の人が必ず脳出血を起こすとは限らないし、脳出血の原因は高血圧以外にも多数あるから、因果関係は認められない」ということのようです。
以前、高血圧からくる腎不全(と、医師が診断した)で請求した事例がありましたが、その場合も高血圧で受診した日ではなく、腎不全で初めて病院を受診した日が初診日になりました。
4.まとめ
この記事では、相当因果関係について解説しました。
相当因果関係の判断は社労士でも難しいことが多く、「出してみるまでわからない」という場合もあります。
そして本文中にも書きましたが、相当因果関係の成立/不成立によって初診日が変わります。
人によっては請求できないと思っていた年金が請求できたりすることもあります。
自分も該当するかもしれない、と思った場合、まずは専門家に相談することをお勧めします。