「交通事故で障害を負ったけど、慰謝料をもらったから障害年金はもらえないんですよね?」
「職場の事故で労災が下りたけど、障害年金はもらえるんですか?」
事故によっては、損害賠償金や労災保険の給付として、障害年金と同じ趣旨のお金を受け取れるケースがあります。
その場合、障害年金の請求はできますが、二重取りにならないよう調整がかかります。
ただし、第三者の損害賠償金と労災保険の給付では、それぞれ調整の内容が変わります。順に解説していきます。
目次
1.第三者行為
交通事故など第三者の行為が原因で障害を負った場合、通常は加害者から損害賠償を受けることができます。
そうすると、「多額の損害賠償金をもらったから、障害年金はもらえないんじゃないか?」と誤解してしまう方が少なくありません。
損害賠償金と障害年金を同時に受け取ることはできませんので、調整がかかるのは事実ですが、全期間について調整がかかるわけではありません。
調整が終わった後は障害年金が普通に支給されます。
どういう範囲で調整がかかるのかを解説します。
1-1.調整対象になる損害賠償の種類
まず、受け取った全ての損害賠償金が対象になるわけではありません。
障害年金は生活保障なので、それに相当する種類の損害賠償金が調整の対象になります。
具体的には「休業補償」「逸失利益」などが該当します。
慰謝料は調整の対象になりません。
また、医療費や葬祭料などの実費分も調整の対象になりません。
1-2.調整対象額
調整は「損害賠償として受け取った額だけ、障害年金が支給停止される」という考え方で行われます。
加害者から逸失利益補償として100万円を受け取った場合、100万円分について障害年金が停止します。
例えば年金が月10万円だとすると、10か月分の年金が停止されます。11か月目からは普通に支給されます。
これが基本です。
ただ実際には、損害賠償の額はかなり多額になることが多いため、支給停止期間に上限が設けられています。
事故が平成27年9月30日以前の場合は24月が、
事故が平成27年10月1日以降の場合は36月が、それぞれ上限となっています。
仮に1億円の損害賠償金を貰っていたとしても、この上限が過ぎれば調整は終了し、障害年金が通常通り支給されます。
また、このカウントは障害年金の支給開始日からされるわけではありません。あくまで「事故の翌月から36月」です。
事故から障害年金の受給権発生までは間があることが多いので、丸々3年間停止することは殆どありません。
通常の認定日請求であれば、事故から1年6か月後に年金を請求することになるため、調整期間は残りの18月だけ、ということになります。
幼少期の事故で、20歳から年金が支給された場合などは、すでに事故から3年以上経過しているためまったく調整がかかりません。
1-3.実務上の手続き
第三者行為障害の場合、請求書に「第三者行為」である旨をチェックし、
「第三者行為事故状況届」「同意書」「確認書」を作成して添付します。
また、事故が確認できる証明(交通事故証明など)が資料として必要になります。
損害賠償の算定書や示談書等、受領した額と内訳がわかる資料も必要になります。
2.労災事故
業務上の事故によって障害を負った場合は、労災保険から療養費や休業補償、障害補償などの給付が下ります。
そして同じ障害を理由で障害年金を請求することも出来ます。
障害年金は満額支給されますが、労災給付が一定の割合で減額されます。
以下は、労災と障害年金の具体的な調整について解説します。
2-1.調整対象となる労災給付
まず、調整の対象になるのは、労災給付と障害年金の原因が同じ障害である場合です。
別々の原因で障害年金と労災給付を受けていた場合、支給調整はありません。
また、療養給付などは調整対象になりません。
調整対象となるのは、休業補償給付と、障害(傷病)補償年金です。
※労災給付に付随して支給される各種の特別支給金は、調整から除かれます。
2-2.労災年金と厚生年金等の調整率
受給している障害年金の種類に応じて、労災からの給付が減額されます。
(労災年金と厚生年金等の調整率)
例えば、労災保険から年300万円の給付が出て、障害厚生年金+基礎年金が年100万円だとします。
そうすると、労災保険が73%に調整され、2,190,000円に調整されます。給付額の合計は319万円になります。
なお、例えば労災給付が年400万の場合、調整されると2,920,000円になります。
そうすると、給付額の合計は392万円になり、障害年金を請求することで収入が減ってしまうことになります。
その場合は、労災給付と障害年金の差額に相当する100万円だけが調整されます。
(合計は400万で、給付額は従前と変わらないことになります)
2-3.調整の例外
調整の例外として、以下の二点があります。
①20歳前障害による障害基礎年金
初診日が20歳前にある障害基礎年金については、労災給付との併給が認められていません。
同時に受給した場合、障害年金側が全額支給停止になります。
②業務上の事故につき、事業主による補償がされた場合
一部の個人事業など、労災保険に未加入だった場合は、業務災害の補償は事業主が行うことになります。
その場合、障害補償との調整が行われ、障害年金は6年間支給停止になります。
3.まとめ
この記事では、事故と障害年金についてまとめました。
「損害賠償金や労災給付をもらっているから、障害年金はどうせもらえないだろう」
という先入観を抱いてしまい、請求せずに放置してしまう方は意外と少なくありません。
記事にも書きましたが、調整がかかるだけで障害年金の請求自体は可能ですし、調整によってマイナスになることはありません。
「自分の場合はどうなんだろう?」「請求がややこくて難しそう」などと感じた場合は、一度専門家に相談することをお勧めします。