障害年金の制度上、「初診日」がいつになるかと言うのは非常に重要になります。
初診日は「障害の原因となった傷病について、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」と定義されています。
しかし病気によっては、一度治った後もまた再発するような場合があります。その場合、初診日はいつになるのでしょうか。
この記事では、「治癒」について、特に「社会的治癒」について解説します。
1.医学的治癒
まず、「一度病気が完全に治った後、再び再発した場合」の取り扱いを説明します。
障害年金には「過去の傷病が治癒したのち再び悪化した場合には、再発として過去の傷病とは別傷病とし、治癒が認められない場合には、継続として過去の傷病と同一傷病として取り扱われる」という運用上のルールがあります。
結論だけ言えば、一度医学的に治った場合は、再発して病院を受診した日が新たな初診日になります。
医学的治癒は、いわゆる根治が可能な傷病についてのものです。
2.社会的治癒
精神疾患や難病など、根治する方法がなく「医学的治癒」という概念のない疾患があります。
そのような疾患は、基本的に増悪と寛解を繰り返すことになります。
では、10代の頃うつ病で精神科に通っていた人が、症状が良くなり就職し、その後20年間普通に働いていて、うつが再発したような場合はどうでしょうか。
うつ病が医学的に治癒することはないという理由で、10代の頃を初診として請求しなければいけないのでしょうか。
そこで出てくるのが「社会的治癒」という考え方です。
社会保険の運用上「医学的には治癒していないと認められる場合であっても、軽快と再度の悪化との間に外見上治癒していると認められるような状態が一定期間継続した場合は、いわゆる社会的治癒があったものとして、再発として取り扱われる」とされています。
つまり、医学的には治癒していなくても、社会的に治癒していると認められれば、別傷病として取り扱われることになります。
2-1.社会的治癒の条件
過去の裁決例から、おおむね以下の条件を満たせば社会的治癒が認められるとされています。
・治療の必要がなくなったこと(予防的医療は除きます)
・自覚的にも他覚的にも病変や異常がみとめられないこと
・一定期間、普通に生活または就労していること
・上記のような状態がおおむね5年以上継続している
端的に言えば、通院と通院の間に5年以上間があって、その間に普通に働いていれば社会的治癒が認められる可能性が出てきます。
なお過去の裁決例では、仮に通院があっても、それが予防的医療(経過観察や予防的な薬物投与だけだった場合)は社会的治癒を認めるとされています。
その場合は予防的医療であったことを何らかの形で証明する必要があります。
なお実務上は、あっさり社会的治癒が認められる場合もありますが、上記の条件を問題なく満たしているのに社会的治癒が認められず、再審査請求まで争ってようやく認められた事例もあります。
また、5年未満で社会的治癒が認められた事例もあります。
なかなか一筋縄ではいかない制度、という印象が強いです。
2-2.社会的治癒の運用
では、社会的治癒が認められるとどういうメリットがあるのでしょうか。
実務上、社会的治癒を主張するのは以下の2パターンがメインです。
①初診日に受給要件を満たしていなかったために障害年金を受給できなかった人が、再発後は受給要件を満たしている場合
→社会的治癒が認められれば、障害年金 が受給できる
②初診日が国民年金加入で、再発後は厚生年金だった場合
→社会的治癒が認められれば、基礎年金ではなく障害厚生年金が請求できる
なお、社会的治癒が認められることで、請求上逆に不利になるパターンもあります。
例えば初診日に納付要件があり、その後数年間病院に行かなかったがその後再発、その時点では納付要件がないというような場合です。
その場合は年金機構側から社会的治癒と言ってくることがあります。
こういう場合は、逆に社会的治癒の認定を避けるため、「受診はしてないが通常の社会生活は営めていなかった」という主張を請求時点でする必要があります。
3.まとめ
社会的治癒というのは、うまく認められれば貰えない年金が貰えたり、額が上がったりします。
ただ、条件を満たせば100%認められるというわけではなく、診断書の記載や病歴申立書の内容などをしっかり作っていく必要があります。
かなり難易度の高い請求になります。
また、請求をする上では逆に「社会的治癒が認められないように」行わなければいけないケースもあります。
実際に請求するうえで「もしかしたら、社会的治癒が該当するケースかもしれない」と思った場合は、一度専門家に相談することをお勧めします。