「働いていたら障害年金はもらえないのですか?」
「今、障害年金をもらっていますが、仕事をしたら止まってしまうんですか?」
就労したら障害年金はどうなる?というのは非常に多い質問です。結論を先に言うと、「ケースバイケース」ということになります。つまり、働いていても障害年金を貰える人はいますし、貰えない人もいるということです。
では、一体どういう人が「働いていても障害年金を貰える人」なのでしょうか。
この記事では、障害年金と就労について解説をしていきます。
目次
1.障害年金と就労
障害年金の制度上、就労の取り扱いはどうなっているのかを説明します。
まず、障害年金の目的は稼得能力の喪失の補填と言われています。仕事に支障があって働けなくなった、あるいは収入が下がってしまった場合に障害年金を支給しましょう、という目的の制度です。
また「障害認定にあたっての基本的事項」には、障害年金等級の例示としてこういう文章があります。
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。
労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。
以上の話をざっくりまとめますと、「仕事が出来ない場合は2級」「仕事ができても支障がある場合は3級」というのが障害年金の基本的な姿勢になります。
しかし実際は、働いていることを理由に3級すら不支給になる人も、働きながら2級の年金を貰っている人もいます。
その理由は、障害の分類と働き方によって認定方法が異なるからです。
2.障害の種類ごとの請求方法
まずは分類について見ていきましょう。
日本年金機構の分類では、障害の種類は以下のようになっています。
1.外部障害
眼、聴覚、肢体(手足など)の障害など
2.精神障害
統合失調症、うつ病、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害など
3.内部障害
呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど
この分類は、「働きながら障害年金を貰えるか」という点を考える上で非常に重要になります。
なぜならこの分類ごとに「就労」の捉え方が異なるからです。
2-1.眼、聴覚、肢体(手足など)の障害と就労
眼、聴覚、手足などの障害を外部障害と言います。
外部障害の場合、原則として就労能力は障害の認定と無関係です。
例えば交通事故で右足の膝から下を切断し、障害年金2級を受給している人がいたとします。この人が職場で配慮を受けながらデスクワークを行い、高額の給料をもらっていたとします。
2級の障害年金を貰いながら、労働により収入を得ていることになります。では、障害年金は止まるでしょうか?
答えは「止まらない」です。それは「膝下切断は2級相当」と下肢障害の認定基準で決まっているからです。
外部障害の場合は、目であれば視力や視野、耳であれば聴力、四肢であれば四肢の機能によってそれぞれの障害認定基準が決まっています。
ですから「働いていて給料がいくら」というような話は、審査においてはほとんど無関係になります。
2-2.精神障害と就労
精神障害の場合、就労状況の影響は非常に大きいです。
外部障害と違い、精神障害は「日常生活と就労にどれだけ支障が出ているか」という点を見て等級を判断するからです。
実際に、精神の障害の診断書には就労状況を記載する欄があり、どういう風に働いているかが診断書に明記されます。
就労支援施設や障害者雇用での就労であれば、審査は有利になります。援助や配慮を受けての保護的な就労だという裏付けになるからです。
逆に、一般雇用でフルタイムで働けていれば3級すら難しくなります。
その他にも、障害とそれに対する配慮をいかに受けているかで扱いが変わります。詳しくは「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」において、就労している場合に考慮すべき要素がまとめられています。
情報量がかなり多くなりますので、精神障害と就労についてはこちらの記事でまとめてあります。
2-3.呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんと就労
呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなどの障害を内部障害と言います。
内部障害の場合も、就労状況は原則として審査に影響します。
例外として、人工透析や人工弁など、それ自体が何級と決まっているものもあります。その場合は、就労状況とは無関係に障害認定されます。
しかしほとんどの内部障害は、診断書に記載される各種の検査結果と一般状態区分を参照し、これらを組み合わせて審査を行います。
一般状態区分とは、以下の5段階評価です。
区分 | 一般状態 |
---|---|
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの (例えば、軽い家事、事務など) |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
このように、内部障害の場合は就労状況も含めた全体的な活動能力が採点されます。目安として、イが3級相当、ウ~エが2級相当、オが1級相当と言われています。肉体労働が出来なくなった場合は3級、軽労働すら出来なくなった場合は2級というのが大体の水準です。
さらに内部障害には、検査数値などの明確な基準がないものがあります。例えばがんによる「衰弱」を理由に請求する場合です。
その場合は、がんが引き起こす障害と、抗がん剤による副作用などを総合して、「日常生活にどれだけ支障があるか」を見ます。明確な基準がないことから、一般状態区分及び就労状況はさらに厳しい目で見られます。
診断書で一般状態区分「ウ」と評価されても、「実際に働けているから3級も不支給」という認定をされてしまった事例があります。
では、もし内部障害で就労していた場合、どういう形で請求をすればよいのでしょうか。
重要なのは、就労において生じる支障と、実際に受けている配慮を伝えることです。
がんの事例では、厚生年金に加入していたものの、抗がん剤治療のため月の半分以上は休んでおり、残りの半分も体調不良が続き、非常に手厚い配慮を受けて働いているなど、保護的な就労状況であることを伝えて、3級に認定されたケースがあります。
他にも、外出不能のため在宅で出来る範囲のみ仕事をしていたり、仕事は全くできていないが在籍だけはさせてもらっているなど、非常に保護的な配慮を受けているケースがあります。
このような状況を病歴申立書で申し立てるのは当然として、診断書にもしっかりと明記してもらうのが望ましいです。
精神以外の診断書には就労状況を書く欄がありません。ですから、こちらからしっかりと書いてほしい就労状況を医師に伝える必要があります。
がんに限らず、他の内部障害についても同様です。
3.就労して年金が支給停止になる場合
精神障害、内部障害の場合は、一度受給権を取得したとしても、その後の就労状況によっては等級が下がったり、不支給になることがあります。
実際の流れはどうなるのかを説明します。
3-1.年金が止まるのは更新の時
よく心配されているのが、「働きだすと、年金はすぐ止まっちゃうの?」というものです。
結論から言うと、年金はすぐには止まりません。
仮に元気になったり、傷病が治ったりしても、停止するのはあくまで更新の際です。
極端な話、受給権を得てからすぐに働き始めたとしても、次回の更新までは止まりません。
3-2.所得制限にかかる場合
「年金が止まるのは更新のタイミング」と言いましたが、もし受給している障害年金が「20歳前の傷病による障害基礎年金」だった場合は、所得制限の対象になります。
具体的には、所得が4,721,000円を超えると、翌年の10月から翌々年の9月までの年金が全額停止します。3,704,000円を超えると1/2が停止されます。
(額は単身者のものです。扶養家族一人につき停止枠に月38万円~が加算されます)
この支給制限は障害状態や更新とは無関係に行われますので、外部障害でも年金が停止する可能性があります。
4.まとめ
この記事では、就労と障害年金の関係についてまとめました。
「働けるなら障害年金は絶対にもらえない」と誤解されている方もいますが、外部障害であれば就労状況はほとんど関係ありません。
内部障害であっても働き方によっては受給権を得ることができます。
いちがいに「働けるなら障害年金はもらえないに違いない」と思い込んでしまうと、貰えるはずの年金を失ってしまいます。
この記事が少しでも役に立てば幸いです。