障害年金を請求するためには、初診日を確定する必要があります。
初診日が不明だったり、証明できないような場合は、障害年金の請求を受け付けてもらえません。
通常は病院に書類作成を依頼し、初診日について記載してもらうことになります。
ですが、書類が取れない場合もあります。その場合はどうすればいいのでしょうか?
この記事では、第三者証明について解説します。
目次
1.初診日について病院の書類が取れない場合
通常は、初診日の証明として病院から「受診状況等証明書」と言う書類を取得します。
この書類に、発病から初診に至るまでの経緯と、初診の日付を記載してもらうことで、初診日がいつであるかを証明することができます。
ただ、人によっては初診日が何年も前、下手すると何十年も前という場合があります。
しかし、初診の病院に当時のカルテが残っていなかったり(カルテの保存義務は5年です)病院自体が廃院になっている可能性があります。
その場合は書類が取れませんので、その次にかかった病院の受診状況等証明書を取得した上で、さらに初診日を証明するための証拠を提出する必要があります。
証拠については調査を行います。他の病院の記録を調べたり、過去に取った診断書等があれば初診日に関する記載がないかを調べます。
診察券やお薬手帳などで初診日が証明できることもあります。
場合によっては、全く何も出てこない場合もあります。
出てこない場合は、どうすればいいのでしょうか。
2.第三者証明
第三者証明とは、端的に言えば第三者による証言です。
「あの人は〇年×月から△△病院に通っていました」という形で知人友人に証言をしてもらい、それを書面で申し立てるものです。
客観性に欠けるため、病院が作成した書類と比べると証拠力は落ちます。
しかし第三者証明によって請求し、障害年金を受給した事例は少なくありません。
では、具体的にどういう状況で使えるものなのでしょうか。
2-1.過去の事例
少年時代からずっと難聴で、10代の頃に何度か病院に行ったものの、治らないため放置していた方がいました。
現在は聴力がさらに落ち、2級に該当すると言う事で、障害年金請求の相談にみえました。
現在の診断書は取れましたが、10代の頃の初診日については不明です。
何十年も前の話なので、本人も細かい話を全く覚えていません。
「当時ここに行ったかもしれない」という病院はすでに廃院になっています。
このままだと初診日がいつだったかの証明ができません。
そこで、中学時代の友人や、当時の担任から証言をもらいました。
特に担任の先生が当時のことをよく覚えていて、「彼は当時から耳が悪かった。病院で診てもらうよう勧め、学校を休んで〇〇病院を受診した」
という旨の証言をいただくことができました。
それを書面で提出したところ、中学時代に初診日があったことを認めてもらえたのです。
2-2.20歳前の傷病による障害基礎年金
上記の事例が認められたのは、証言がしっかりしていたのもそうですが、初診日が20歳前だったことも大きな理由です。
20歳前の傷病による基礎年金を請求する場合、他の客観的な資料がなくても、第三者証明だけで初診日を認めてもよいという取り扱いになっているからです。
なぜこのような取り扱いになっているのでしょうか。
20歳前の傷病による基礎年金は、通常の年金と違って「加入要件」と「納付要件」が問われません。
そのため、ある程度アバウトでも「20歳前に発病して、病院を受診していたこと」という事実さえ証明できれば制度上は問題にならないことが多いのです。
2-3.それ以外の請求の場合
初診日が20歳後の障害基礎年金、または障害厚生年金を請求する場合は、第三者証明は参考資料程度となります。
「加入要件」並びに「納付要件」を審査するために、初診日を厳密に確定する必要があるからです。
ですから、「初診日について参考となる他の資料の提出を求め、両資料の整合性を確認」するという取り扱いに留まっています。
具体的にはどういう状況で使用するのでしょうか。
例えば、「新卒で入社した職場のパワハラが原因でうつ病になり退職した。数年間〇〇病院に通院した後、当院を受診した」と現在の診断書に記載があったとします。
初診の病院のカルテはもうありません。
そして診断書のこの記載だけでは、発病が就職後なのは特定できても、肝心の初診日が就労中なのか、退職後なのかが確定できません。
しかし請求にあたっては、初診日を年月日まで特定できなくても、最低限「初診日当時の加入機関が厚生年金だったか、国民年金だったか」は明確にする必要があります。
そこで、当時の同僚から「彼は上司からパワハラを受け、〇〇病院の精神科に通院しながら働いていた。時々薬を飲んでいた。いろんな面で配慮をしていたが、その後退職してしまった」という旨の証言をもらえたとします。
この第三者証明を診断書の記載と組み合わせることで「就労中に通院を開始した=厚生年金の時期に初診があった」と認められる可能性が出てきます。
このように、第三者証明単独では認められなくても、他の客観的な資料と組み合わせることで初診日を裏付けるという使用方法になります。
3.第三者証明の要件
では、実際に第三者証明はどのように作成すればいいのでしょうか。
用紙は下記リンク先からダウンロード可能です。記載例もついています。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/shougai/shindansho/2018042601.html
基本的には、記載例に沿って氏名や本人との関係、傷病名、病院名や病院の所在地などを書いていきます。
記載例だけではわかりづらいいくつかの点について詳しく解説します。
3-1.申立の種類
第三者証明には、以下の三種類があります。
ア 第三者証明を行う者が、請求者の初診日頃の受診状況を直接的に見て認識していた場合に、その受診状況を申し立てるもの
イ 第三者証明を行う者が、請求者や請求者の家族等から、請求者の初診日頃に、請求者の初診日頃の受診状況を聞いていた場合に、その聞いていた受診状 況を申し立てるもの
ウ 第三者証明を行う者が、請求者や請求者の家族等から、請求時から概ね5年以上前に、請求者の初診日頃の受診状況を聞いていた場合に、その聞いてい た受診状況を申し立てるもの
端的に言えば、初診日時点に「受診状況を直接見ていた」または「聞いていた」という形の証言になります。
ただし、リアルタイムではなく過去の話として「10年前から〇〇病院の精神科に通っている」とか「中学の頃からずっと××病院に通っている」などと聞いていた場合は注意が必要です。
この場合は「請求日の5年以上前からすでに聞いていた」という証言でなければ認められません。
このような縛りがないと「請求のために作り話をして、それを証言してもらう」ことがいくらでも出来てしまうからです。
その点、請求時よりも5年以上前から聞いていたのであれば、障害年金の請求と無関係に話していると考えられるので信ぴょう性がある、と言う捉え方をされます。
“第三者証明の形式”
- 初診日時点で、受診状況を直接的に見ていた人の申立て
- 初診日時点で、受診状況を本人または家族から聞いていた人の申立て
- 5年以上前から、初診日当時の受診状況について本人または家族から聞いていた人の申立て
3-2.第三者証明を行う人について
まず、第三者証明を付ける場合は、その信ぴょう性の問題から、原則として複数(二人以上)の第三者証明が必要とされています。
ただし、初診日当時の病院で働いていた医療従事者の証言など、相当程度に信ぴょう性の高い証言であれば、一人でも良いとされています。
なお、誰の証言でもいいというわけではありません。
民法上の三親等内の親族による第三者証明は、認められません。
三親等というのは、曾祖父母、曾孫、おじ、おば、甥、姪までの関係です。
いとこは四親等なので認められます。
3-3.「申立者が知っている当時の状況等」について
申立の内容は、下部の「申立者が知っている当時の状況等」欄に記載します。
求められる内容としては、記載例だとこのようになっています。
①初診日頃の受診状況を知り得た状況
②発病から初診日までの症状の経過
③医療機関の受診契機
④初診日頃における請求者の日常生活上の支障の程度
⑤医師からの療養の指示など受診時の状況
なお、全てきっちり埋める必要はありません。分かる範囲で書けばいいとされています。
そしてこの際、「どうして初診日の時期が特定できたのか」という理由があれば、併せて書くことをお勧めします。
「この人が初めて病院に行ったのは平成23年の3月12日です。覚えています」とただ言われても、信ぴょう性が薄いからです。
そこに「東日本大震災の翌日だったからよく覚えています」と言うように、「なぜ覚えているか」の裏付けが加わると、認められやすくなります。
4.まとめ
この記事では、第三者証明について解説しました。
書類がどうしても取れない場合に使う手段ですが、これで認められた事例はいくつもあります。
病院が廃院になったり、カルテが残っていなかったりすると請求自体を諦めてしまう人も多いです。
100%認められるわけではないですが、こういう方法もあるというのを知識として役立てていただければ幸いです。